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  • 執筆者の写真本堀雷太

【技術コンサルティングの現場から(環境工学)】ゾウリムシが教えてくれる

本堀技術士事務所の専門分野の一つに「環境工学(衛生工学)」という技術があります。


これは「汚染などの環境面での課題に関し、様々な単位操作を組み合わせながら解決する技術の体系」であり、化学や物理、生物、化学工学、土木工学、機械工学など様々な分野の技術をベースにしている学際的な領域です。


例えば、排水処理において微生物の集塊の働き(代謝)により汚濁物質を除く「活性汚泥法」や廃棄物の中間処理で多用される「破砕処理」などが単位操作の代表例です。


我々、環境工学の専門家は、顧客からの依頼に基づき、汚染などの状況を把握し、どの単位操作を適用するのかを決定して課題を解決しています。そして、適用した単位操作が適切なものであったかを評価し、運営管理や改善に繋げて参ります。これが環境対策の基本的な流れとなります。


しかし、これらの環境対策というものはトラブルが頻発する事も多く、その解決には勘と経験に裏打ちされた知識や知恵が必要となります。


今回は、排水処理において、経験的に知られている知識を利用する技法の一つをご紹介させて頂きます。


排水処理の現場では、実際にその処理方法が効果的に作用し、水の浄化が進んでいる事を確認する作業が求められます。


「そんなの水質の分析をやればいいじゃないの?」と思われる方もおられるでしょうが、水質の分析というのは意外に手間や時間が掛かるため、おいそれとは実施する事はできません。


特に排水処理装置のトラブルにより排水処理が滞れば、工場全体の稼働状況にも悪影響を及ぼす事もあり、一刻も早くトラブルの原因を把握し、適切な処置を施す必要があります。


この様な場合、まずサンプルとして採取した処理水や汚泥を観察し、色や匂いなどをチェックします。そして、顕微鏡で微生物を観察すると、意外に早く問題点を見つける事が可能となるケースが多くあります。


多くの排水処理の現場では、水中に溶けた汚れ成分を微生物の作用により除去するプロセスが用いられています。生物の力に頼るため、「生物処理」と言います。


排水中の汚濁成分は、人間にとっては“汚れ”なのですが、微生物にとってはまさに“エサ”でありまして、微生物に汚れを食べてもらう事で水中から汚れを除くという方法です。


この生物処理においては、働く微生物の種類によって浄化の進み具合が大きく異なります


そして、微生物の発生状態は水中の酸素濃度や溶解している成分により大きく異なっており、処理水や汚泥の中に存在する微生物を観察すれば、水質を測定しなくても処理の状況というものをある程度把握する事ができるのです。


一例をご紹介しましょう。下の写真をご覧下さい。





これは、食品廃棄物のリサイクル工場で、「排水処理装置を稼働しても汚水の浄化が進みにくくなった」とのトラブルが発生したと連絡を受け、取り急ぎ処理槽(曝気槽)中の水と汚泥を採取して顕微鏡で観察したものです。


汚泥の中には大量の「ゾウリムシ(Paramecium caudatum)」が発生していました。


ゾウリムシといいますと、中学校の理科や高校の生物学の授業で聞かれた方もおられるかとおられるかと思いますが、単細胞生物で細胞の周りに繊毛(せんもう)という毛が生えており、細胞分裂によって増殖を繰り返します。


実は、このゾウリムシという生き物が処理槽内で観察されたという事は、技術的に非常に重要な意味を持っているのです。


ゾウリムシは比較的汚濁度が強く、しかも水中の酸素濃度が低い環境を好む傾向があります。


そのため、ゾウリムシが多く観察されたという事は処理槽内の酸素濃度が低くなってしまっている事を示しており、浄化の進み方が遅いのもこの酸素不足が原因である可能性があります。


そこで、客先に曝気の強度を上げ、槽内への酸素の供給量を増加させるべきであると提案しました。


その後、一週間ほど曝気強度を上げてみまして、処理槽中の水と汚泥を採取して顕微鏡で観察してみますと、発生している生き物に顕著な変化が現れました。





先に観察されたゾウリムシに加え、ゾウリムシよりも丸みを帯びた微生物が多く見られました。


これは、ゾウリムシの近縁種の「ヒメゾウリムシ(Paramecium aurelia)」という種類の生き物です。


ヒメゾウリムシはゾウリムシよりも汚濁度の低い環境を好む傾向がありまして、これが処理槽内に現われたという事は酸素の供給量の増加により、処理水の浄化が着実に進行している事を示しています。


事実、水質分析を行ってみますと、ゾウリムシが大量に発生した状況よりも溶存酸素の量が増して格段に水質の浄化が進行しており、そのまま下水道に放流できるレベルにまで至っている事が明らかとなりました。


確かに水質分析は定量的なデータを得る事ができるのですが、測定に手間や時間が多く掛かってしまいます。


そのため、早急にトラブルの原因を把握するためには、今回お話しした「微生物の観察」というものが威力を発揮します。


先人達の努力により、水質の状況によってどの様な微生物が発生し易いかは経験的に明らかとなっています。


この様な経験に基づいて得られた知見というものは、教科書にも載っていない事が多く、現場で人づてに継承されてきました。


この様な勘や経験に基づく知見や技術を有している事は、我々技術コンサルタントにとっては大きな財産です。大切にしたいですね。


さて、最後にゾウリムシ繋がりで、少し変わったゾウリムシの仲間を紹介します。


下の写真をご覧下さい。





これは建設廃棄物の処理業者の工場に併設された開放型の排水処理装置で見つけたもので、「ミドリゾウリムシ(Paramecium bursaria)」といいます。


名前の如く他のゾウリムシと異なり緑色をしており、細胞内にある緑色のツブツブに由来しています。


実は、この緑色のツブツブは、「クロレラ」という藻類(緑藻)の仲間でありまして、ミドリゾウリムシは自らの体内に異なる生物を住まわせているのです。


クロレラは光合成を行って栄養分を生産し、その一部をミドリゾウリムシに提供しています。


ミドリゾウリムシは、クロレラに安全な棲み処与え、更にクロレラの光合成に必要なミネラルなどの成分を外界から取り込んで提供しています。


つまり、ミドリゾウリムシとクロレラは、いわゆる「共生」という関係を築き、助け合って生きているのです。


皆様の工場にもある排水処理装置の中には、こんな不思議な生き物も住んでいるんです。面白いですね。


今回は、技術コンサルティングの現場でのテクニックについてお話しさせて頂きました。


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