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  • 執筆者の写真本堀雷太

【技術解説(化学)】スチレン(Styrene)の語源

 まずは、下の写真をご覧下さい。これ一体何だと思いますか?





 これは「蘇合香(そごうこう)」というお香です。マンサク科の植物から得られる天然樹脂を成形したもので、写真のものはトルコ産です。


 マンサクは我が国にも広く分布している植物で、ちょうど今の時期黄色の美しい花を咲かせています。





 実はこの蘇合香、我々の身近で使われているプラスチック素材と深いに関係があるのです。多くの方は、「お香がプラスチックと一体何の関係があるの?」と思われるかもしれませんが、実は大アリなのです。


 汎用プラスチックの代表選手である「ポリスチレン(PS)」は、溶融時の流動性が良好で成形性に優れ、おまけに安価であるため、我々の身の回りにあるプラスチック成形品に広く利用されています。


 カップやフィルムなど食品包装、文具や玩具、発泡成形を施した断熱材など我々の生活の隅々にまで深く浸透している汎用プラスチックの代表的な存在です。


 ポリスチレンはモノマーであるスチレン(St)を重合する事により得られますが、実はこの「スチレン」という名前は「蘇合香」に由来しているのです。


 蘇合香はスチレンを主成分(3割ほど含む)とし、桂皮酸や桂皮酸エステル、安息香酸、バニリンなどの様々な成分を含んでいます。


 実はスチレン(Styrene)は、蘇合香から発見されたため、蘇合香の名前である「スチラックス(Styrax)」に基づいて名付けられました。


 蘇合香には、鎮静作用や鎮痛作用、抗菌作用など認められ、現在では主に香水(フレグランス)の原料として利用されていますが、強心作用や利尿作用も有するため生薬としても利用されています。


 しかし、プラスチックに関わっている方の中には不思議に思われる方もおられるのではないでしょうか?


 スチレンと言えば、FRPの成形や発泡スチロールの減容処理の際などに発生するガスの様なイヤな臭いが思い浮かぶのは私だけではないと思います。


 事実、スチレン自体は「悪臭防止法」における「特定悪臭物質」に指定されており、脱臭処理などの周辺環境対策を講じなければならない物質です。


 またスチレンは発がん性なども疑われている物質で、日本産業衛生学会が定めている許容濃度は20ppmと曝露管理も必要な物質です。


 しかしながら、蘇合香に含まれているスチレンの量は、規制値を遥かに下回る程の僅かの量であり、特に気にする事はないと思います。


 今回は、“伝統的な天然香料”と“プラスチックの原料(モノマー)”が意外な所でつながっているというお話をさせて頂きました。


 化学に悠久の歴史ありですね。





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