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※今回公開させて頂きましたトレンドレポート「【Q&A】バイオポリエチレンってなんだ?」は、顧問契約を結んで頂いているお客様および会員の皆様に向けてテクニカルレポートの形でも有償頒布もさせて頂いています。印刷して利用する事を希望される方は、当ホームページの会員向けオンラインストア「テクノマーケット」にてお買い求め下さい。一般の方で頒布を希望される方は別途、当事務所までお問い合わせ下さい。

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バイオポリエチレンってなんだ?.png

       本 堀 技 術 士 事 務 所
        代 表 本 堀 雷 太
     技術士(衛生工学部門、生物工学部門)
     環境カウンセラー(事業者部門)
     労働衛生コンサルタント(労働衛生工学)

 当事務所には日々お客様より多くのご質問が寄せられます。その中で重要なものに関しては、別途、レポート化したり、解説動画を作成したりして、会員の皆様に有償で頒布させて頂いています。

 このページでは、その様な会員向けレポートの中から、今注目すべきテーマに関するものを特別に期間限定で公開させて頂いています。
 
 今回は食品メーカーの技術者の方から、「スーパーで買ったレジ袋に「バイオポリエチレン」って書かれていたんだけど、ポリエチレンって石油から作るんだよね。バイオってことは微生物にポリエチレンを作らせているの?」との御質問を頂きました。

 そこで技術的な視点から読み解きつつ、このご質問にお答えさせて頂きます。

 皆様御存知の通り、2020年7月1日より「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器包装リサイクル法)」の関係省令の改正に伴い、全国一律でプラスチック製レジ袋(買物袋)が有料化されました。

 この改正においては、「消費者が購入した商品を持ち運ぶために用いる、持ち手のついたプラスチック製買い物袋」、いわゆるレジ袋を有料化する事を眼目としているのですが、“抜け道”もいくつか存在しています。

 その一つが、「バイオマスプラスチック率が25%以上のものは有料化の対象外とする」というものです。下写真をご覧下さい。

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 これはレジ袋有料化が実施された後にあるホームセンターで買い物をした際に“無料で”頂いたレジ袋です。

 表面に「バイオマスプラ」、「このレジ袋は植物由来のバイオマスプラスチックを25%配合することにより石油資源の節約と地球温暖化防止に貢献しています」との記載がなされています。
 
 そして素材の表記に「ポリエチレン(バイオポリエチレンを含む)」と記されており、今回ご質問頂きましたバイオポリエチレンが使われている事が分かります。

 
 近年、プラスチック原料製造における新たな出発原料としてバイオマスが台頭し、バイオマスプラスチック生産が本格化してきました。

 本来、バイオマスとは生態学において「特定時の特定空間における生物(Bio)量を物質量(mass)として表したもの」と定義されていますが、転じて「生物に由来する資源」としての意味も持ちます。新聞やテレビなどで、「バイオエタノール」とか「バイオディーゼル」という言葉を聞かれた方もおられるのではないでしょうか?

 
 現在、エタノールを工業的に生産するプロセスは、ナフサや天然ガスに由来するエチレンに硫酸触媒存在下で水を付加させるものが主流です。

 ところが近年、アメリカやブラジルを中心にトウモロコシなどに含まれる「デンプン」や樹木などに含まれる「セルロース」、廃蜜糖などの糖質廃棄物に含まれる「糖類」を原料としてエタノールを生産するバイオプロセスが商業化されてきました。


 そして、このバイオエタノールを原料としてエチレンを生産し、さらにこれを重合してポリエチレンを生産するプロセスが稼働しはじめました。

 この様にバイオマスを原料として生産されたポリエチレンを「バイオポリエチレン」といい、我が国でも包装用途を中心に少しずつですが使われ始めています。


 バイオポリエチレンの具体的な製造プロセスですが、原料の糖類に酸や塩基、加水分解酵素、異性化酵素などを作用させて「グルコース(ブドウ糖)」に変換し、更にエタノール発酵を行うことで「エタノール(バイオエタノール)」を生産します。

 このエタノールを脱水して、エチレンを生成させ、これを重合することでバイオポリエチレンを製造することができます。参考に、図2にバイオポリエチレンの製造プロセスを従来の化石資源(石油、天然ガス)と廃棄されたポリエチレンを出発原料とする再生プロセス(マテリアルリサイクル)のスキームと共に示します。

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 このバイオポリエチレンの製造プロセスについては、2011年にブラジルのBraskem(ブラスケム)が商業生産を開始しています。またアメリカのDow Chemical(ダウ・ケミカル)も2015年より商業生産を開始しています。
 
 バイオプロセスは原料面で石油(ナフサ)に依存しないため、石油価格変動の影響は受けにくいものの、“低コストが売り”のシェールガス由来のポリエチレン製造プロセスとの価格競争が熾烈です。

 コスト的には原油やシェールガス、石油随伴ガスなどから生産された化学合成ポリエチレンとは勝負になりませんが、持続可能なバイオマス原料から生産されたという環境面での長所がどの様に評価されるかが普及への鍵となります。


 容器包装リサイクル法の改正に伴うレジ袋の有料化に際してバイオマスプラスチックが25%以上含まれているものを有料化の対象外としたのも環境上のメリットを優先し、市場への普及を促す事に狙いがあります。
 
 バイオマスプラスチックは持続可能な資源より製造され、カーボンニュートラルな素材(ホントは違うけど・・・)という事になっていますので、環境調和型の素材であると言えます(少なくとも環境省や経済産業省はその様に認識している様です)。


 また、バイオマスプラスチックの中には「生分解性」を示すもの、いわゆる「生分解性プラスチック」というものもありまして、海洋や河川などの自然界へ逸出してしまった場合も、微生物などの作用により自然に還っていく事で環境への負荷が低減される事も期待されています。

 現在、我が国の政府はバイオプラスチックの普及に努めており、2019年に策定された「プラスチック資源循環戦略」においてもバイオプラスチックを「Renewable(再生可能)」な資源と位置付けています。
 
 レジ袋に使われているバイオポリエチレンもバイオプラスチックの一つとされており、それ故に徐々に国内で普及してきています。


 では、実際どの程度の量のバイオポリエチレンが我が国に流入しているのか、財務省の貿易統計からデータを引っ張り出して見てみましょう。実は2019年の4月から貿易統計にバイオポリエチレンの区分が新設されまして、HSコードに加え、新たな統計細分が加えられました。

 従来(2019年3月まで)は原油由来のポリエチレン(石油由来ポリエチレン)とバイオポリエチレンの貿易統計上の区分はなされておらず、バイオポリエチレンの生産国(ブラジルやアメリカ)からの輸入量の推移からバイオポリエチレンの輸入動向を推し量る事しか出来ませんでした。
 

 表1に新たに設けられたバイオポリエチレンの統計細分と輸入動向を示します。統計調査の対象となるバイオポリエチレンは、(1)比重が0.94未満のバイオポリエチレン(低密度)、(2)比重が0.94以上のバイオポリエチレン(高密度)、(3)比重が0.94未満のバイオポリエチレンとαーオレフィンとの共重合体、(4)その他のバイオポリエチレンとし、それぞれの輸入量を集計しています。

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 財務省の意向なのか、2019年7月以降の輸入量は公表されていないものの、輸入量は増加傾向にあり、現在は恐らく月量で数千トン程度の輸入が行われていると思われます。

 輸入先は全てブラジルからで、これは先にも触れましたブラジルの化学会社Braskemが製造したものです。これを日本の商社(豊田通商や双日プラネットなど)が輸入しているという構造になっています。

 
 先に2019年4月よりバイオポリエチレンの統計細分が新設されたと述べましたが、これはこの時、バイオポリエチレンの輸入については関税を暫定無税にした事に由来しています(石油由来PEについては課税対象)。

 実は2019年3月まではブラジルからのポリエチレン輸入に関しては、石油由来ポリエチレン、バイオポリエチレンに関わらず一般特恵関税制度(GSP)に基づく税率が一律に適用されていました。

 ところが、ブラジルがGSPの適用国から外れ、しかもバイオポリエチレンについては暫定無税とする措置が取られた事により、貿易管理上新たな区分を設ける必要に迫られたのです。
 

 なお「一般特恵関税制度(Generalized System of Preferences : GSP)」とは、開発途上国・地域を原産地とする工業産品や農水産品の輸入に関して、輸出の拡大や工業化の促進などを進める事で経済的な発展を支援するために、一般の関税率よりも低い税率を適用する制度の事です。

 表1に示した貿易統計のデータは少ないものの、輸入金額からザッと市場でのバイオポリエチレンの単価を推し量ると150~200円/㎏程度になるのではないでしょうか。

 これは石油由来ポリエチレンの1.2~1.7倍程度の価格であると思われ、バイオポリエチレンの環境上のメリット(ライフサイクルにおける二酸化炭素排出量の削減など)を鑑みると経済的に流通可能な価格ではないかと私は考えています。


 欧州バイオプラスチック協会によれば、2019年の時点で全世界のバイオポリエチレンの生産能力は約25万で、この内の大部分がブラジルのBraskemに由来していると思われます。他にも米国のDowやLyondellBasell、サウジアラビアのSABICなどがメーカーとして知られています。

 我が国に輸入されているブラジル産のバイオポリエチレンは、サトウキビの搾り滓である廃密糖を出発原料とし、これをアルコール発酵して得られたエタノールを脱水してモノマーであるエチレンを得た後に重合する事で製造されています。
 
 現在は廃密糖のみならずセルロース系の糖質資源など他のバイオマスを出発原料として用いる製造プロセスも盛んに研究開発されています。


 経済産業省によれば2019年における我が国のポリエチレン消費は250万トンであり、この中に占めるバイオポリエチレンは数千トンと量は僅かであるものの、その市場における地位は着実に上がってきていると言えます。
 

 いずれにせよ、バイオマスプラスチックというものが今後、再生プラスチック原料と共に「環境に調和した素材」として認識され、市場での流通活性化に向けた取り組みが拡大すると見るべきでしょう。

 なお、バイオマスを原料とするプロピレンやスチレンの合成も検討されており、商業的に成り立つかは現段階で判断できませんが、技術的には非常に面白いと思います。

​ ご参考に現在研究が進められている(一部は小規模ながら実用化されている)バイオマスポリプロピレンの合成スキームの一例を示します。

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 この様に新たな原料資源の台頭や新たな製造技術の登場は、市場の心理に大きく影響を及ぼし相場に影響を与えるだけでなく、実際に商業生産が軌道に乗れば取引価格の改定という形で反映されてきます。

「環境に調和した素材」という視点が商品の一つの価値として認められる時代となってきた事は間違いないでしょう。

当事務所としてもバイオプラスチックの市場動向を注視し、逐一お客様に情報を提供させて頂きますので、お暇な折りに当事務所のホームページの会員向け情報やブログ、技術レポート、解説動画をチェックして頂けますと有難いです。

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